1-4薄暗い朝の海辺の死けった空気の中黒く大きな影が眼前に広がる。黒く大きな帆船ファーザーズアンカー号だ。 あたしたちを古塔にいざなってくれる水先案内人とも言える。 大きな船だが、話では小回りもきき、横に付いた小型艇で古塔のある島にアプローチするそうだ。 古塔のある海域は荒れ気味だそうだが、あたしたちが上陸している間はその海域に碇を下ろし、帰りを待っていてくれるのだが…残念ながらその時間は限られたものである。 何とか指定された時間までにこの船に戻らなくては…。 もちろんその心配は他のメンバーではなくあたしに向けられたものがおおいことはいうまでもないが。 そんな気持ちをよそにメンバーたちはに船に乗り込んでいく。 続く形であたしも船のタラップを上がっていく。 ガッシャガッシャと鎧の合わさる音がそこかしこでにぎやかに聞こえる。 船の中は思っていたより広く、各個人の部屋を設けることが出来るほど広いといった様相だった。 あたしは、荷物と動きやすいくらいに装備をはずし、武器を手にしてみた。 氷の結晶を模したハイフロストエッジの刀身がきらっと光っている。 これらがあたしの命綱なんだ…。 街をでる前に研いだのでもちろん刃こぼれなんかしてはいないが、落ち着かなく、刃をじっと見つめては手を動かしていた。 しばらくしてなにか気持ちがはやってしまい、船室でじっともしていられなかった。 まだ太陽は顔を覗かせてはいない、少し肌寒い海にはとてもじゃないが心地良い風とはいえないが、それでもなぜだか、部屋にいるよりは落ち着いた気持ちにさせてくれた。 気がつくと軽装になったラルフさんが横にいた。 『どうしたんだい嬢ちゃん。まさかハンターで船酔いかぁ?』 『べ、別に酔ってるわけじゃないんです。…なんだか落ち着かなくて…。あの、ラルフさんが着てる鎧って…。』 『あぁ、シルバーソルだ。きれいだろぅ。毎回磨くのに時間がかかるけれどねぇ。』 火龍リオレウスの中でもごくごく希少種とされる銀色の火龍…。 その鎧を着ているということは…、幾度となくそれらと戦いを交えたと言うこと! 『でもまぁ…、正直なところそれもこれもフレイのお陰だ…。アイツは…本当に強い。幾度となく俺は折れそうになったが、何度となく救って貰った。』 少ない時間しか見てはいないが、初めて見せるうつむいた表情だ。 そしてラルフさんは続けた。 『だがなぁ…、そうなったのも嬢ちゃんのお陰とも言えるのかもしれないなぁ。』 何かつかみようのないいきなりの展開。 あたしのお陰? 『えっ!?どうゆう…』 『フレイは嬢ちゃんとつるむようになってからやっと一人以外でクエストに行くようになったんだ。それまでは…誰とも行かなかった、ただ一人で狩り続けたんだ、あいつを、【ヴリトラ】を見つけ出すまで…。』 『【ヴリトラ】…ですか?』 どこかで聞いたような…でも~、まったく思い出せない。 何か…、うわさで聞いたような…。 『知ってるのか?【ヴリトラ】を』 『いえ、知りません。ただテオ=テスカトルと言うだけでビビッてましたから…そんな名前までは…。』 『……そうなのか。まぁ知らないほうがいいのかもしれないなぁ。或る意味…』 苦笑い交じりにあたしを見た。 『これから戦う敵の名だ。誰も教えてくれなかったのか?テオ=テスカトルの中でも一つの群れの王、酒場では燃え盛る火山を模して【ヴリトラ】と呼ばれているんだ…。 そして…フレイの恋人であり狩りの相棒エドガーのかたきだ…。』 『あわわわああわわわわ…』 ひざが笑い始めた。何か言いようの無い寒気と震えがあたしを包む。 船のゆれもあいまってしりもちをつきそうになる。 必死に船の壁に手を突いてバランスを取ろうとする。 『今更腰抜かしたってもうこの船は引き返しちゃくんねぇぞぉ。あきらめて腹くくるんだな。それに酒場で話もしてたじゃねぇか。まったく話をきかねぇ譲ちゃんだなぁ。』 『おや、来たのかドレイク。今、死神の話をしていたところだ…。お前のコロサルダオラだって、フレイからの戦利品みたいなもんだろ?お前だって譲ちゃんに教えてやれよ、俺だけが悪者になるのはいやだからねぇ。』 『なんだそりゃ?…、確かに、あまり大きい声ではいいたくねぇが、死にそうなところをあいつに助けてもらってやっとこさっとこ紅玉を手に入れて作ったもんだ。でもそんときゃぁ、お前だっていたじゃねぇか、ラルフ。俺だけが死にそうだったわけでもない。』 『そりゃぁまぁそうだからなぁ。まいったな、そういうことをいいたいんじゃないんだ。どういったらいいんだかねぇ?』 『ならあたいが説明してやるよ。なぜあたいが死神と呼ばれるか、なぜ一人で狩を行っていたか、そしてなぜ、『ルミナ』がきっかけだったのか…』 少しうえにある台からフレイさんは見ていたようだ、ずっと…。そして私たちのもとに降りてきた。 『あっれぇ~、お姫様の到着だぁ~、それじゃぁ~邪魔者は退散しますよぉ~』 っと素っ頓狂な声を上げながらラルフさんはこの場から逃げようとするが、フレイさんに首根っこを捕まえられた。 『別にいい。怒っちゃいない。趣味は良くないとは思うけど。』 『フレ、イ…、悪かったよ、どうでもいいけど、とても怒ってないような行動には見えないんだけどなぁ』 首に手をかけたままフレイさんはラルフさんを見ていたづらに笑った。 1-5に続くよ。 |